第四話 自分を見失う
自分は消防士と勤めて、2年が経とうとしていた。
これまでにも、人命救助の経験を重ね、火事の現場にも何度か出場していた。
自分は、次の人事異動で特別消化中隊が配置してある所属を希望した。
なぜなら、救助隊員(オレンジ)になる前のステップとして、一番ふさわしい異動先だとい考えていたから。研修時代一番優秀だった人材が、怪我で同期から出遅れる。言わば、都落ち状態から、こうして地道にステップアップして這い上がっていく。シンデレラストーリーに、舞台整ったと、一人有頂天に立っていた。
これで、必ず同期をアッと驚かせるイメージはできていた。
同期が驚いているにも関わらず、自分は平然といつも通り淡々とこなしていく姿も
「さすがやな〜」
「お前ならやると想ってたよ」
って言葉を妄想していた。
そして、人事異動で希望通りに特別消化中隊へ配置となる。
ここまでも自分の想定通りで、全てはうまく進んでいた。
人事異動も完了し、間も無く、周りのレベルは明らかに変化した。
まず、技術や体力はもちろん、モチベーションが高い隊員が揃っており、同じように救助を目指すライバルも集結していた。そして、隊長も救助隊を経験した。救助の経験豊富な隊長が配置された。
自分自身もこれから、刺激的な毎日を送れると興奮気味だった。
新体制での救助活動訓練や消火訓練を隊長の指導の元、順調にこなしていた。
数日後、、、、、
救助の出場指令が入電。
西武新宿線での、人身事故の情報が入る。
毎週月曜日、東京では電車に飛び込むサラリーマンが多い。
そして、頻繁に電車の遅延は起こり、ホーム内で待っているサラリーマンはボヤく
「またかよ〜。人に迷惑かけんなよ」
「どっか違うところでやってくれよ」
また、しかめっ面で、貧乏ゆすりをしながら、イライラを隠せない人もたくさんいる。
狭い電車内やホーム内で、我先にと近くの人に体当たりしながら、ブーブー言いながら職場へ急ぐ人もいる。
そんな状況を、自分には変えることはできない。
ただ自分ができることは、電車に飛び込んだ人を助けること。
ただそれだけ!!!
そして、自分は人身事故が起きた現場へ到着
電車での人身事故での死亡確率は非常に高い。
大概が血まみれで、身体がバラバラになっているケースが多い。
言葉を選ばずに言うと、、、
えぐい
だから、今回も自分は確実に、人命はなくなっていると心の中で思っていた。
幸せの価値とは一体何なのかを考えさせられる。。。。
そして、自分が目にしたのは、
40歳前後の女性だった。
しかも確実に、息をしており生きている。
自分は呼びかけます。
「大丈夫ですか??歩けますか??
「・・・・・・・」
返答がない。でも確かに息はしている。
再度呼びかける。
「大丈夫ですか??すぐに病院に行って治療してもらいましょう。
もう大丈夫ですよ。」
女性は昏睡状態だった。
呼びかけると微かに反応はある。
一刻も早く病院に搬送しなければ、命が危険である状態だった。
バイタルチェックでも脈動が弱く、呼吸もかなり弱い
そんな中女性が、何か喋っているのが、微かに聞こえる。
「た・・・す・・・・
「助けてください」
と言っている力ない声が聞こえたように感じた。
自分はそれに応えます。
「今助けますからね。もう少しです。頑張りましょう。」
女性はまた、力ない声で何か言っている。
「た・す・・・
「け」
「な」
「い」
「で」
自分は一瞬言葉を疑った。
女性は「助けないで」と言っていたのだ。
その後、自分は何も言えなかった。
自分たち消防士の仕事は、人命を救助すること。
自分は人命救助するために、消防士になった。
なのに、、、
自分自身には信じれなかった。
人命救助することが自分の中での使命感であり、正義だと想っていた。
ただ、この時は違った。
女性はきっと、職場での人間関係で死にたくなったのか?
職場ではないにしても、死にたい様な出来事があり、今に到っている。
日本は年間に約3万人に上る自殺者数(警視庁統計)
平均して、1日に約100人近くの人の命が、自分の意思で命を絶っている。
日本には、美味しい食べ物は多く、治安もいい、便利なものは溢れている。
四季折々、世界でも屈指の絶景100選は全国津々浦々
にも関わらず!!!
現在は若者の自殺者数が増加している傾向にあり、ニュースでもよく中学生や高校生、大学生の自殺ニュースも耳にすることが多い。
こうしている間にも、自殺を選択しようとしている若者がいると言う事実に、自分は何とも言葉では言い表せない感情に襲われていた。
「助けないで」
と言われた。この衝撃は今でも忘れられない。
そして、全ての人が、人命救助を求めているのでは、無いと言うことを初めて知った。
人それぞれ、生きている環境、人間関係により、思い悩んでいることは全く違う。
一人として、同じ人生を歩む人はいない。
同じ家庭環境に生まれたとしても、全く違う価値観の人間に育っていく。
自分の人生というドラマのヒロイン(主人公)を演じるのは自分。
そして、そのストーリーを
創るのも
編集するのも
キャストを選択するのも
全て自分
時に失敗もするし、
あれやってみたり、これやってみたり、
いろんな経験をしながら、
自分自身を見失うこともあるかもしれないが、
それも全て含めて、自分
自分らしさって、結局は自分が普段感じている事
普段考えている事
自分らしさは自分で創ればいい
自分は新しい価値観に触れながらも、今自分がやる事は
人命救助だと
再度、心に誓い
また、日々の訓練・災害現場へと奔走し続ける。
次回は最終話 運命の悪戯
いよいよ最終話
これはみなさん
必見です。
ストーリーが大きく変化する結末